峯岸利恵の音楽手帖

好きな音楽や日常にまつわるあれやこれやそれです

2015.12.14 My Hair is Bad 「師走の虎」ライブレポート

 

My Hair is Bad のフルアルバム『woman's』、遂に明日リリースですわよ奥さん。

今日は店着日?ですって!

聞きました?いや、聴きました?

 

今作についてはまた別の機会に語るとして、

『woman's』初回限定盤に特典として付属されている、渋谷CLUB QUATTROで行われたワンマンライブ「師走の虎」のDVD。

これ、ヤバくないですか?(語彙力)

付属なんて言葉で扱うには頭が地面にのめり込む程申し訳なくなってくるクオリティな訳ですが、実はわたしも当時レポートを書かせて頂きました。

敏腕マネージャー・うーさんのご厚意でオフィシャルHPに載せて頂いていたのですが、諸事情で今は見られなくなっているので、これを機に当ブログにて公開させて頂きます。

 

スーパーハイクオリティなライブと迫力も臨場感も二千億点な映像と合わせるも良し。

このライブをいち人間が観るとこう感じるのか~と客観視するも良し。

いっそ読まないも良し(笑)

 お好きにご堪能ください!

そして藤川さん!もしこれを見ていたら写真掲出許可ください!(笑)

 

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2015年12月14日、月曜日。

新潟で生きる若者が、数百キロ離れた東京・渋谷のライヴハウスを満員の人で埋めた。

 

彼らには驚くほどの演奏スキルがあるわけじゃないし、強力な人脈があるわけでもない。彼らをここに導いたのは、3人の〈人間力〉ただそれだけだ。曝け過ぎともいえる私情の吐露と、やり過ぎともいえる驚異的なライヴ数。でもそれらは全て彼らにとって最適量だったのだと思い知らされた、渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライヴ〈師走の虎〉。

「マイヘア良かったなんて言わせるつもりはありません、最高だったって言わせます」―――その言葉通り文句なしに最高だった本ライヴを、一人のファンとして彼らを追ってきた筆者が、その目で見て感じたまま綴ろうと思う。

 

開演時間の19:00に椎木知仁(G/Vo)、山本大樹(バヤリース)(Ba)、山田淳(やまじゅん)(Dr)の3人がステージに現れると、3人の姿を捉えた観客は拍手で彼らを迎える。そしてドラム前に集合して互いの拳を突き合わせ、「セイッ!」と声を出すと、真っ直ぐ正面を向いた椎木が「新潟県上越市から来ました、My Hair is Bad始めます」と挨拶する。その瞬間、期待が充満した会場は真っ赤な照明に染まり、噛みしめるように歌い始めた“真赤”で幕を開けた。最初は緊張が見えた3人の様子も、“18歳よ”“教室とさよなら”、“マイハッピーウェディング”と飛ばしていくなかで、普段通りの彼らに変わっていった。新調したドラムセットを楽しそうに叩くやまじゅんの気合に満ちたプレイや、動きのあるバヤリースのプレイにも一段と熱が入っていた。

 

彼らの曲には、観客好みのビートを刻んで楽しませようなんて予定調和は一切ない。今、この瞬間の彼らのテンションをありのまま刻んでいく。多少テンポが前のめりになったっていい、彼らのステージではそれが持ち味に変わる。それは「僕らのライヴで後悔させると思いますか?させません」という決意表明と共に歌われた“赤信号で止まること”の曲中、何度も問われた「誰の為に?」という言葉が物語っていた。彼らは自分の為に歌って、鳴らして、立っている。だから嘘をつく必要も、着飾る必要もない。そんなスタイルは、「夢が叶った気分です」と語る渋谷クアトロのステージでも決して変わらなかった。

 

だからこそ、「始まりの音が聴こえるというのは、自分で鳴らしたから聴こえるんだ」と歌い出した、彼らにとっての始まりの歌である“月に群雲”がいつも以上に強く心に入り込んできた。そこから吹っ切ったように“クリサンセマム”“ディアウェンディ”とハイスピードで飛ばしていく3人の姿は、観ているこちらが怯んでしまうほどの気迫に満ちていた。シンバルが割れるのではないかとひやひやするほど激しく叩き散らすやまじゅんの豪快さや身体を捻らせながら全身で音を鳴らすバヤリースのプレイにも拍車がかかり、椎木にいたっては“友達になりたい”でギターを抱えたまま客席にダイブ!さらにそのまま肉声で、「ついにきたぞ、クアトロ!俺らはドカンと売れたわけでも力を使ったわけでもない、じゃあ何をしていたかって言ったら、ライヴをしてました!こんなにライヴする必要もねえし、金もねえけど、信じてて良かった!」と叫んだ。

 

そんな数々の迫真のプレイに耐えかねたのは、ギターの弦だった。「虎が獲物を捕る時どうすんだ、休憩しねぇだろ?」と言いながら、弦が切れたギターのままチューニングだけ合わせてライヴを続行し、“フロムナウオン”へ入る。

 

「ギリギリを、スレスレを、一か八かを、紙一重を。そういう奇跡を、瞬間を信じたいんだ」「俺はここまでやってきたこと、全部○だとは思わない。×もやってきたし、赤信号も渡ってきた。その結果が、あんたが今観てるこのステージだ」「○だけ取っても×だけ取ってもだめだ。なに怯んでんだよ」「選んでみろよ、僕らにある選択肢は、やるかやらないか」

 

そんな書ききれないほどの言葉の濁流に飲まれて、上手く息ができなかった。一瞬でも気を緩ませたら、ぷつんと切れたあのギターの弦のように負けてしまう気がした。だからこそ、歯を食いしばって一音も聞き逃さないように踏ん張った。それくらい演者も観客も互いに真剣だった。

 

そして曲が終わると、椎木は赤いレスポールに持ち替えた。「このギター、渋谷で買ったんですよ。なんか不思議じゃない?」と話し、「このギターで作った曲をやります」と“最近のこと”を披露。

イントロが鳴ると同時に、〈私のこと、忘れないでよ〉というギターの声が聞こえてきた気がした。

そんな思い出のギターの音色に乗せて「どんどん時間が戻っていく、君を思い出してる」と零しながら、“悪い癖”“ドラマみたいだ”“彼氏として”と、新しい曲から昔の曲へと遡っていく。時制の変化ひとつ逃せない、「好き」なのか「好きだった」なのか。映画でもドラマでもない、今この瞬間に変化しているドキュメント。あの頃の曲の「君」は今の曲の「君」ではないかもしれないけれど、その時々に想うひとりの女性のことだけを描いた歌詞が、忘れていた思い出や匂いまで思い出させてくれるようだった。

 

そして、「日記みたいで絶対売れない」と話した新曲と「30歳になっても、40歳になっても歌えるように」という願いを込めた“優しさの行方”、さらにラストに「最後までドキドキして帰って!」と渾身の“アフターアワー”を届けた。〈僕ら最高速でいつだって走れるわけじゃないんだって いつかは止まってしまう日が来る〉なんて歌いながら、「まだまだ上に行ってやる!」と宣言した椎木の言葉に迷いはなかった。

 

そして鳴り止まないアンコールに呼ばれ再度ステージに戻った3人は、月曜日というド平日に集まってくれた観客に感謝を告げ、「いつまでも続きますように、という気持ちを込めて新曲を歌って終わります」と、まだ名もない新曲を披露した。マイヘアらしい、僕と君だけが出てくる恋の歌。最後にそんな曲を選んできた彼ららしさに思わず頬が緩んだ…と思いきや、「人に嫌われたくないなら、人のこと嫌うなよ!」との決まり文句からアッパーチューンの“エゴイスト”を投下!まさに完全燃焼、夢のステージの幕を堂々と閉じた。

 

…だが、そんな彼らに贈られた盛大な拍手は、2度目のアンコールを望む拍手に変わった。とはいえもう出てこないかもなぁ、なんて思っていた矢先にヒーローの如くステージに現れた3人の姿に、観客は大歓声を上げると共に一気に前へ詰めかけた。そして本当のラストとなった“夏が過ぎてく”は、会場全員での「ワンツー!」の掛け声と共に異様なまでの盛り上がりを見せたのだった。

 

My Hair is Badに抱く感情は、「もっと売れてほしい」とか「もっと大きいステージに行ってほしい」という想いよりも、「ずっと彼ららしくいてほしい」という想いの方が強い。今の音楽シーンがどうかなんて関係ない、マイヘアはマイヘアのまま大きくなってほしい。そして私は、この日のライヴを観ることができて、さらにこうして綴れたことを堂々と誇るだろう。いつも通りの彼らをいつも通り追い続けようと思えた、私自身にとっての決意の日になった。

 

媚びずに、奢らずに、正直に。

My Hair is Badよ、一生ドキュメンタリーであれ。

 

 

■セットリスト

  1. 真赤
    02. 18歳よ
    03. 教室とさよなら
    04. マイハッピーウェディング
    05. 赤信号で止まること
    06. 愛ゆえに
    07. まだ、ほどけて 
    08. 新曲(タイトル未定)
    09. 白熱灯、焼ける朝
    10. 月に群雲
    11. クリサンセマム 
    12. ディアウェンディ
    13. 元彼氏として
    14. 友達になりたい
    15. フロムナウオン
    16. 最近のこと
    17. 悪い癖
    18. ドラマみたいだ
    19. 彼氏として
    20. 新曲(タイトル未定)
    21. 優しさの行方
    22. アフターアワー
    <アンコール>
    23. 新曲(タイトル未定)
    24. エゴイスト
    <ダブルアンコール>
    25. 夏が過ぎてく