今年で設立15周年を迎えたインディーレーベル、I HATE SMOKE RECORDS。「煙のように時代に流されるのではなく、確固たる意志とスタイルを持って音楽を向き合っているアーティストの作品を出す」をモットーに、これまで数多くの作品を世に放つ手伝いをしてきたレーベルだ。そして今回、15周年という記念すべきタイミングで、主宰のOSAWA17さんにインタビューを実施!2006年からスタートさせたレーベルでの、今までのこと、これからのこと。THE SENSATIONSなどでバンド活動も行っているOSAWA17さんの15年について訊いた。
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――OSAWA17(以下、OSAWA)さんがレーベル業を始めたきっかけは何ですか?
大学4年生の時に、単位も取り終わって暇だし、レーベルでもやってみるか!というテンションで始めました。当時、UNITED SKATESというバンドを組んでいたんですけど、僕らの世代より少し上の先輩で言うと、STEP UP RECORDSやSTIFFEEN RECORDS、Justrock Recordsといった、もう第一線でバリバリ活動しているバンドが多くいまして。 僕らもそういったシーンに食い込みたいけど、まだまだペーペーバンドが故に全く相手にしてもらえなかったんです。だけど周りにはカッコイイと思えるバンドも沢山いたし、じゃあ自分でレーベルを立ち上げて、まずはコンピでも作ってみるか、という考えに至りました。今でこそ店舗流通をするハードルは下がりましたけど、その頃はTOWER RECORDSやHMVに音源を取り扱って貰うっていうのがかなりハードルが高くて。でも、やるからにはそういうところにも取り扱いしてもらえるようになりたいと思っていました。
――でも、いきなり個人でレーベル業務を行うというのは、知識的にも金銭的にも、かなり大変だったんじゃないですか?OSAWAさんは学生だったということもありますし。
大変でしたね。2006年に、ディスクユニオン内のDiwphalanx RecordsからUNITED SKATES の1stアルバムをリリースすることが決まったんですけど、その時に担当してくれた方にレーベルのノウハウを教えてもらったんです。プレスのやり方から歌詞カードの印刷方法に至るまで、制作業務についての知識が全くなかったですからね。服やCDといった身の回りの物を売りながら資金を捻出して、パソコンも買い替えて必要なソフトも入れて……なんてことをしていたら、金はめちゃくちゃ飛びました。
――そうですよね……。その後、レーベル第一弾となるコンピレーションアルバム『Change The Dance Floor Into The Mosh Pit!!!!』をリリースした時には、継続的にレーベル業をやってみたいという意欲はあったんですか?
『Change The Dance Floor Into The Mosh Pit!!!! 』は1000枚作ったんですけど、1か月くらいで手元にあった在庫がなくなったんですよ。そこに何か手応えを感じたというのもありますし、当時一緒によくやっていた yellow gangというバンドも「俺らもアルバムを出したいと思ってるんだよね」と言っていたタイミングもあり、「一緒にやらない?」ってことで、そのまま2作目が決まったことも続けるきっかけになりましたね。
――リリース後に変化はありました?
『Change The Dance Floor Into The Mosh Pit!!!! 』の反響が、思っていたよりも大きかったんですよね。UNITED SKATESのツアーで各地に行くと、コンピをきっかけに僕らのライブに来てくれた人もいたし、そこでレーベルの面白さを実感しました。
――ライブ現場で気付くというのは、バンドマンだからこそ得られた実感ですね。
バンドをやらずにレーベルだけやっていても、バンド側の気持ちが分からなくなっちゃいますしね。ツアー中にカッコいいバンドに出会うこともあるので、バンドもやりつつレーベルも運営していくスタイルで良かったと思います。当時は、日常的にMyspaceやPurevolumeなどで音源をアップしているバンドをチェックして、片っ端から音源を買って、気に入ったら連絡したり。ツアーでその人たちの地元に行った時に一緒にライブをやって、そうしてできた繋がりはめちゃくちゃありました。I HATE SMOKE RECORDSでは、年末に30組くらいのバンドに参加してもらうコンピレーションアルバムを作っていた時期があったんですけど、そこに参加してもらうバンドは、各地で一緒にやったり、出会ったバンドですしね。
――やっぱり、実際に一緒にライブをやることで感じるシンパシーを大事にしているのでしょうか?
それは大きいですね。音源だけで判断することは、ほとんどないです。あとはやっぱり、昔堅気かもですけど、一緒に話したり、酒を飲んでいて楽しいか、というのは大事かも。一緒に作り上げていく上でお互い楽しめるか?というのはずっと大事にしていますし、そのスタンスは今も昔も変わっていないです。うちからリリースしませんか?と伝えるのって、告白するみたいにめちゃくちゃ勇気がいることで。なので、出会って、きちんと時間をかけて解り合ってからお声がけすることが多いかもですね。
――I HATE SMOKE RECORDSのリリース作品を見ると、音楽的にはパンクやハードコアの色が強いように思いますが、そこに意図はあるのでしょうか?
単純に、自分がずっと聴いてきたのがそのジャンルだからですかね。ネオアコやソフトロック、ギターポップなどポップなものも好きなので、そういったサウンドを鳴らすバンドのリリースもさせて貰っているんですが、そのメンバーも意外にもパンクルーツがある人たちが多いんですよね。
――へえ!聴いただけではなかなか分からないところではありますが、繋がる部分は確かにあるんですね。OSAWAさんのルーツにはどういった音楽がありますか?
中学生の時にLUNA SEAをめちゃくちゃ聴いていました。その後にHi-STANDARDやGOING STEADYを聴き始めて、そういった音楽に影響されつつ、高校生の時に初めてバンドを組みました。「Salty Pizza」っていうバンドでね、めちゃくちゃしょっぱい過去ですよ(笑)。そのバンドは高校卒業と共に解散後、SEVENTEEN AGAiNやUNITED SKATES〜THE SENSATIONSをやっていった流れですね。
――なるほど。先ほど、レーベルに誘うバンドの人間的な相性を重んじるという話がありましたが、これまでを振り返ると、どういう人たちが多いなといった共通点はありますか?
何かに似ているとか、〇〇っぽい、という表現だけではまとまらない音楽をやっている人たちが多いですね。ただ焼き増しでなく、独自の解釈があると言いますか。ちょっとズレちゃってる音楽をやっている人たちに惹かれますね。あとは、単純に音楽好きかどうかも重要だと思います……でも、性格的にはかなり丸くなったと思います。昔は、似たような音楽をやっている人たちに悪態ついてましたもん(笑)。
――ははは!若気のなんたら、ってやつですね。そうなると、OSAWAさんの琴線に触れるバンドって少ないんですか?
好みが偏ってるのでなかなか出会う機会は少ないかもしれないですね。なかなか世間的にはこれは売れる!といったバンドの作品を出してないですからね(笑)。
――でも、レーベルを運営する上では、売れる/売れないってシビアな問題ですよね。
ディスクユニオン内でレーベル業を行っていた時期もあるんですが、その時はもちろん会社なので数字を求められましたし、本当にリリースしたいものだけをやり続けるといった点で一企業に属してやる難しさや苦しさも知りました。でも、ノウハウもある程度知った時に、ひとりで運営するなら企業にいる事で生じる余計な諸経費も極限まで切り詰めながら、もっと自分のやりたいようにやっていけるんじゃないか?と思えたんです。 独立後の数年はレーベルに注力しながら、今では他の仕事の割合も少しずつ増やしていく感じで運営を続けています。
――レーベルのみで食べていけなくなった理由には、やはりデジタルへの移行は関わってきますか?
フィジカルの売上だけで言うと、サブスクの影響は大きくあるのかなと思います。でも、サブスクは気になった音楽を気軽に触れられるので、良い入り口になっているなとは思っています。ただ、今ってリリース日当日に全曲配信解禁している方が多いと思うんですが、個人的にそこは疑問に思っています。 サブスクは新しい出会いやお試しの場っていう少し軽いスタンスな認識が個人的にはあって、そこに全力投球する必要ないんじゃないか?と思っていたりします。 それもあって、I HATE SMOKE RECORDSからここ最近リリースしている作品については、アルバム10曲なら、サブスクはその内5曲だけ聴けるといったバランスで解禁しています。
――今は、曲単位で聴かれることの方が多いとも言いますしね。
勿論、アルバム1枚を全曲聴けたらそれはファンリスナーとしては嬉しいんですけどね。さっき言った新しい出会いとかお試しを目的にすると、初見の場合アルバム全曲聴けるとしても、なかなか全曲まるっと聴かないと思うんですよ。なので、それならライブでよくやる曲とか、これは絶対聴いて欲しい!といった曲を絞った方が興味を持ってくれる可能性も上がるんじゃないかなと思っていて。まあでも、そこでバンドと意見がぶつかることもあるんですけど(笑)。
――サブスクをきっかけにして、盤を買うという流れは見えています?
うーん、はっきり何とも言えないですけど、サブスクで聴いて、ライブを見て、会場で直接買ってくれているであろう人は、ここ最近増えている気はします。
――OSAWAさんが、盤を出すことにこだわっていきたいと思う理由はどこにありますか?
その時代にどういうバンドがいて、どういうメッセージを発信していたかを「物」として記録する為、ですね。今年8月にSTARVINGMANの『分厚い壁に小石を投げ続けるep』のCDとレコードをリリースしたんですけど、今作以降、I HATE SMOKE RECORDSからリリースする作品は必ず、その2形態で出そうと思っているんです。
さらに、作品のブックレットを充実させていこうとも考えています。ただ歌詞が載っているだけじゃなく、メンバーによるライナーノーツやインタビューを掲載して、そこでしか得ることのできない情報を載せて、付加価値をつけるといいますか。
――CDと一緒にレコードを出そうと思ったのはどうしてですか?
レコードって今の形になって70~80年近く生き残っている媒体で、今もまた盛り上がりをみせているので、今後もレコード文化は無くならないと思っているんです。C Dも現在のメインの媒体だと思いますし。ただ、サブスクはデータなので消えたら終わりですからね。
――なるほど。OSAWAさんの活動の本質は、「届ける」というよりは「残す」というところにあるんですね。
そうですね。めちゃくちゃ売れるぞこれ!と、狙ってリリースすることはあまりないですね。その時代の記録係で在りたいという思いの方が強いかもしれないです。でも、続けていれば届くところには届いているんだなということは、15年やっていて感じましたけどね。
――その実感は、どういった時に感じますか?
今回、15周年のファンコンピレーションアルバムを作ってもらったんですけど、それをやってもらえたことで実感しましたね。
僕ら世代のバンドを見たり聴いたりして、自分たちもバンドを始めました、と言ってくれていた下の世代のバンドが集まって制作してくれたんですが、めちゃくちゃ嬉しかったです。僕自身も、カクバリズムの角張さんとKilikilivillaの安孫子真哉さんが共同でやっていたSTIFFEEN RECORDSに憧れていて、ああいう風になりたいと思ってレーベルを始めたんです。他にもそういった大好きなレーベルがいくつもあるんですが、自分がいつの間にか誰かに影響やシンパシーを与えたりするようなレーベルに少しでも近づけたんだなと思って。そういうことがあると、レーベルを続けてきて良かったなと心底思いますね。
――めちゃくちゃいい話ですね。
自分が憧れていたレーベルに少し近づけたなと思いました。今後の予定としても、今の僕らより下の世代のバンドのリリースが決まっているんですよ。なので、そこから更に下の人たちがバンドを始めるかもしれないですし、自分のレーベルをプラットフォームにして繋がってくれたら嬉しいなと思っています。今って、昔に比べてジャンルの隔てが無くなってきていると思うんですよね。ジャンルレスなライブイベントも増えてきたし、お客さんもそういう固定観念を持たずに、分け隔てなく好きな音楽を聴いているように思いますし。なので、そういう意味ではすごく自由な時代になったと思うので、どんどん繋がっていってほしいですね。
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■I HATE SMOKE RECORDS ホームページ (twitter:@IHSR)
■OSAWA17( THE SENSATIONS / GIRLFRIEND / DANCE MY DUNCE)
千葉県松戸市出身、1984年生まれ。2004年にSEVENTEEN AGAiNのベースを担当し、2005年にはUNITED SKATESを結成。現在は I HATE SMOKE RECORDSを運営しながら、GIRL FRIENDのベース、THE SENSATIONSのボーカルとして活躍中。(twitter: @OSAWA17)