峯岸利恵の音楽手帖

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tetoteワンマンライブ「溢れて、零れて、落ちた」ライブレポート(2024.3.7)

 

荒川大地(Gt)と、しば(Vo)による、エレクトロニカユニット「tetote」が、3月7日に東京・高円寺HIGHにて、ワンマンライブ「溢れて、零れて、落ちた」を開催した。本公演は、1部「溢れる」と2部の「零れる」の2部構成で行われ、オープニングアクトには一寸先闇バンド(ラボ)が出演し、yukako(Hello1103)によるVJと共に、確立した世界観を作り上げた。

 

1部「溢れる」は、しばの「みんな、宇宙船に乗ってたった一人、この星まで来たんだね。今日は存分に話をしよう!」との呼びかけに続くように鳴らされた「my universe」で幕を開けた。ループされるゆったりとした電子音が浮遊感を生み出し、ふわふわと揺れる水面を彷彿とさせるしばの歌声が自由に泳ぐ。後方のスクリーンには、生命の起源を想起させる映像が映し出される。この日、入場者に配布されたパンフレットには、「私たちの生命は空から溢れて落ちたものである」との言葉が記されていたが、そうした神秘性を随所に感じることができる演出と音楽に、オーディエンスは早くも没頭している様子だった。リズミカルな儚い鍵盤の調べが優しさと繊細さを寄与する「アイスクライマー」では、青い照明に照らされながら、人への愛を説く。自我と意志を持つ前に、この世に生を受ける不思議さや、命とは?自分はどうして生まれてきたのだろうか?自分とは何者なのだろうか?という、人間の根源的ロマンや命題に優しく問いかけるような楽曲を次々と披露。

 

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「THE WORLD IS MINE」では、「誰にも邪魔されない世界で、あなたが、あなたらしく生きれますように」と語りかけつつ、同じ時間の中を別々の歩み方/歩幅で生きていく人間同士の出会いや繋がりを軽やかに歌っていく。踊るように歌うしばの声を支える、荒川が生み出すビートは、人間の脈動のような心地良さと、生命力を感じる力強さを内包していて、エレクトリックだけれど、温かい。しばはこの日、声が掠れてあまり出ないと話していたが、それを優しく支えるような荒川の頼もしさも同時に感じ、「人と人が互いに支え合って生きること」をそのままこのライブで表現しているようだと思った。

 

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 そして、軽快なリズムと荒川の流線美しきギターフレーズとポエトリーリーディングがそれぞれ手を取るように絡み合う「空間飛行」と、未踏の森の奥地に迷い込んだかのような感覚をもたらす「パラレル」へと続け、1部の終幕を彩る「まぼろし」へと誘う。隣から居なくなってしまった人、もう会えなくなった人──誰しもに身に覚えがあるであろう喪失感を慈しむように、淡々と、哀しげに、それでいて時に熱情的に言葉を繋げていく様は、息を呑む美しさだった。

 

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心地良い充足感と余韻を残し、しばしの休憩を挟んで行われた2部「零れる」では、荒川としばの二人が白を基調とした衣装に身を包んで登場。親交のあるバンド・キンヨウノヨルのsayuriによる作品とのことで、このエピソードからも、2部のテーマの一つでもある「人との繋がり」を感じ取れた。生きていく上でどんどんと増えていく人との関わり。その数だけ得るものもあれば、迷いが生ずるものでもある。そうした自我に問いかける2部の始まりを告げたのは、「あこがれ」。このままではいけない。自分でない誰かになりたい。そうした、なりたい理想像があるからこそ生まれる羨望や葛藤を歌っていく。けれど、そう思えるということは、つまり自分が望む人間になるためにすべきことは明確化されているのだと思うし、旅先の景色を共有し合う写真が投影されたスクリーンを背に、遠方にいる友人への想いと憧れを歌った「萌葱」もまた、「自分が自分で在るために大切にしたいもの」の大事な要素なのだろう。人は、人間になるためには、人と人との関わり合いが必要不可欠であるんだという命題を、様々な楽曲に乗せて伝えてくれる。

 

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そこから、赤い照明の中、高揚したテンポでパワフルに鳴らされる「死なない心」や、雲間から差し込む月光のような優しさと温もり感じさせるバラード「夜と手を繋ぐ」、しばが紡ぐ英詞が豊かに泳いでいく「街燈」へと続け、柔和な雰囲気を作り上げていきつつ、電子音とギターサウンドがクールに融合する「fools」では一変、クールな空気感を生み出す。

 

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「恋は盲目」とスタートした「痺れ」では、恋愛における甘さと、欲望故のざらっとした質感を表現。そしてこの日の最後を締め括ったのは、「drink me」。浮遊感たっぷりの音の中、とろけるような酩酊感を醸し出し、オーディエンスを心地良さで満たして、二人はステージを去った。自分が生きていくこと、人と生きていくこと、繋がること、自立すること、与えること、与えられること。生を受け、死を迎えるその瞬間まで、絶えず繰り返されるサイクルを改めて考えさせてくれる、優しくて、慈愛に満ち溢れた一夜だった。

 

tetote Xアカウント:https://x.com/tetote888?s=20

写真:Mayuko Takeuchi