峯岸利恵の音楽手帖

好きな音楽や日常にまつわるあれやこれやそれです

20190330 NOA LAST LIVE@高槻RASPBERRY

 

 THE NINTH APOLLO所属の3ピースバンド・NOA

 201412月に活動休止を発表した彼らが、2019330日を以て解散した。その間、約4年半――数字にするととても長く感じるが、ブランクこそあれどNOAのライブを思い出すことは直ぐにできた。彼らは、業火の如く火花を散らす線香花火のようなバンドだった。触れると崩れてしまいそうなナイーブさと孤独感、それでいて美しく強靭なエネルギーを猛々しく放っていて、最初に彼らのライブを観た時は「なんてバンドなんだ」と驚愕した。それ以来何度もライブを観ては、何度も感動し、何度も胸の内を突き動かされた。私の心はその時の衝動を今もずっと覚えていた。そしてこの日、最後に放たれるその爆発的な衝撃を求めて、NOAが生まれた高槻RASPBERRYという場所に来た。正直、どんな想いでフロアに立てば良いのか分からないまま開演時間になっていた。

 

 この日の対バンは誰なのか?そして何組出るのか?という情報は当日になっても告知されなかった。それ故に、My Hair is BadDay tripperSPARK!!SOUND!!SHOW!!39degreesの全4組がNOAのラストに鳴らし届けにきたと分かったのは、NOAがステージに立った時だった。互いを「兄弟のようだ」と語らう仲であるMy Hair is Badのライブは、哀しみや寂しさや自身の不甲斐なさ、そして感謝と愛を激白するような感情的なものだった。涙ながらにNOAへの想いを語る椎木君の言葉に、同じく涙した観客のすすり泣く声が聴こえてきた。その空間をぶった斬るような超絶爆音爆速サウンドで「いつも通り」を貫いたDay tripper、「俺らは止まってなかった分、しっかり前に進んでいる」と自信と誇りを持って友人を見送ったSPARK!!SOUND!!SHOW!!。そして「いやぁ、久々のNOAとの対バンですよ。イベントってことは音源とか出したの?……え、解散すんの!?」というジョークでいつも通り会場を沸かせながらも、NOAと対バンしていた頃を彷彿とさせるセットリストと最高のアクトで愛を表現した39degrees4バンドそれぞれの在り方と伝え方があって、それでも「NOAは自分達にとって大事なバンドなんだ」という想いはひとつだった。NOAを知る上で、これ以上ない対バンだと思った。

 

 そして、ラストにステージに上がったNOA。しんと静まる会場にそっと鳴らされたギターのアルペジオ。そして「親愛なる高槻RASPBERRYへ。親愛なる、あなたへ………大阪NOA、始めます」というアキさんのその声その言葉でフロアに張っていた緊張感の糸がプツンと切れたその瞬間、「Sleeping pillow」のイントロに乗せて全員が歌った。この場に持ち合わせたそれぞれの想いや哀しみを置き去りにして、フロアに居る人全員が完全に反射で身体が動いていた。これが最後だとか関係なく「NOAのライブを観る」というこの瞬間をどれだけ待ち望んでいたのかが分かる、そんな純粋無垢な光景だった。「from me to you」「lost STAR」と続く中、どの曲が鳴らされ歌われようとその高揚感や興奮はてっぺん知らずに高まっていく一方だったし、アキさんに「俺らもあんたらも歳取ったな。おじさんとおばさんやな」と言われようとも、この場に持ち合わせた心は間違いなくあの頃のままだった。「なゆた」を歌う頃には、アキさんは絶唱の末声が枯れ始めていた。その声を聴く度に、この時間に全てを置いていくというバンドの覚悟が伝わってきた。それは言葉にせずともオーディエンスにもしっかりと伝わっていて、本気と本気のぶつかり合いが放つエネルギーは強く激しく、泣きそうになるほど美しいものだった。My Hair is Badのライブ中、椎木君が「バンドが終わる理由は大抵、金か、関係か。そのどちらかだ」と言っていた。そういう意味では、NOA3人がバンドを組んでいたことは奇跡に近いのかもしれない。けれど、互いが違うからこそ生み出せる反発作用があること、そしてその共鳴が生み出せる未知の美しさを教えてくれたのは彼らだし、その絶妙なバランスの上で成り立つ音をこうして浴びることができるのもまた事実だ。アキさんの声が枯れようと、ポッキーさんの真摯な歌声はいつまでも真っ直ぐで、ユウさんのドラミングは爆速で力強く進んでいく。互いに気遣い寄り添うのではなく、3人が3人のまま、NOAという名の下で己の役割を果たしていた。そしてその関係性の中で垣間見える、例えば「and rem」や「from MOON」でのアキさんとポッキーさんのハーモニーは、NOAを支える三本の支柱がひとつの大きな柱になったかのような安心と温かさを与えてくれる。私は、NOAが見せるそういう表情が今も昔も大好きだ。

 

 だからこそ、ステージ上では滅多に会話をすることがなかった3人が、この日MCで笑って話している姿を見ただけで物凄く嬉しい気持ちになった(盛り上がったのはユウさんのサイコパスっぷりをイジる内容だった)。ポッキーさんとアキさんも「こんなに話せるようになると思ってなかったし、時間って凄いな」「今までで一番長いMCだったな」「ていうか俺、MCこんな感じやったっけ?」「いや、だいぶそれっぽくなったよ」と話していて、その姿を全員が声を上げて笑い見守る温かい光景は、NOAのライブを観てきた中で初めてだった。そして「まぁ(ゲストバンドの)皆も言っていたし、笑って帰ろうか。ラスト2曲」と「ORANGE BLUE」をプレイ。待ってましたと言わんばかりの勢いで最初からシンガロングが始まり、ポッキーさんの「ありがとう!ORANGE BLUE!」の号令を合図に、これ以上ないほどにフロアがめちゃくちゃになった。《Then Goodbye》の大シンガロングは、文句のつけようのないほどに万感の笑顔で満たされていた。活動休止前のライブを観た時は息が詰まるほど苦しかったし、アキさんが前髪で顔を隠しながら「……便利な前髪やな」と泣いていた姿がどうにも忘れられずにいた。だからここに来た時には、その空気を思い出しては気持ちの置き場が分からなかった。けれど、こうして心底楽しめている自分がいること、そういう場所にしてくれたNOAがいること。それが嬉しくてたまらなかった。そして「RASPBERRYを、NOAを、どうか忘れませんように!」という願いが込められた最後の一曲は、「SHE」。その爆音の中で、右も左も上も下も分からなくなるほどに身体も感情も掻き乱されたまま、約1時間に及ぶ本編が終わった。そしてオーディエンスからの熱烈な呼び声に応じてくれた3人は、「タイムテーブルに、【2145分「NOA和解」】って書かれてたで」と笑いながらステージ上で乾杯。そして「高槻RASPBERRY出身、心斎橋新神楽育ち、THE NINTH APOLLO所属、大阪NOAでした。ありがとう」と話し、アンコール、さらにダブルアンコールをしてくれた。

 

 アキさんは「NOAが終わるのは、高槻RASPBERRYが閉店してしまって帰る場所がなくなるから」と話していたが、例え帰る場所は無くとも帰りを望む人は居る。この場所に集った人は「NOAの最後を見届けられて良かった」というよりは、「NOAのライブを観れて良かった」と思った人の方が多いんじゃないかと思う。NOAが好きな時に好きに帰ってこられるように、彼らの音楽を忘れないでいたい。そう思っている人たちがいるということは、NOAだからこそ築くことのできた居場所のひとつだと思う。性懲りもなくそう思わせてくれたこの日のライブを、私は絶対に忘れないようにしたい。

 

NOA、今までありがとう。そして、おやすみなさい。

これからも大好きです。

 

 

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