峯岸利恵の音楽手帖

好きな音楽や日常にまつわるあれやこれやそれです

20190325 Northern19 @渋谷CLUB QUATTRO

 2019年3月25日。Northern19のベーシストである井村知治さんにとって最後のステージとなる、渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブを観た。脱退が公表されてから約1ヶ月半。東名阪の三カ所に渡って行われたラストツアーの最終公演が今回の公演であり、正真正銘のラストライブだった。そのことは十分に分かっていた。分かっていたけれど、ライブハウスに足を運ぶ最中、悲しみや寂しさよりもワクワク感の方が完全に勝っていた。会場に一歩足を踏み入れてフロアに立った時に感じた空気からは、私と同じような想いでこの場に立っている人が多いんじゃないかと思えた。

 

 そんな様々な想いが交錯している会場に、健太郎さん、馬場さん、知治さんが登場すると、3人を歓迎するように前に前にと人が詰め寄っていった。そして知治さんがボーカルを務める“TRUTH”から始まったライブは、少なからず存在していた緊張感を一瞬で吹っ飛ばした。そこから一気にギアを上げて“RED FLOWER”“ANSWER”と続き、短い挨拶を挟みつつも“THE DEPARTURE”“HARTBREAKER”、さらに“TRYOUT”とアルバム収録順にプレイし場を沸かせ、“BELIEVE SONG”や“MORATORIUM”などを一気にプレイ。一音たりとも聞き逃せないグッドメロディの大洪水状態で、バンドもオーディエンスもアドレナリンがフルスロットルで出ずっぱりなのが立ち込める熱気で分かった。健太郎さんが「俺たちの曲って短いからあっという間に過ぎて行っちゃうんだけどさ、曲の長さもそうだけど、何よりいい曲だからだと思うんだよね?みんなあんまり褒めてくれないけどさ」と冗談っぽく話していたけれど、「いや、マジでそうっすよ!!」という賛同を込めて手が痛くなるほど拍手をした。

 

 【メロディック】と掲げる以上そこに妥協は許されないし、日本人を前に英語詞で想いを歌うからには「理解の前にある衝動」を音で掻き立てることが大事になってくる。Northern19はその点にストイックだし、16年間に渡りリリースを重ねる中でも「前の方が良かった」と全く思わせないのが凄い(“STAY YOUTH FOREVER”という絶対的なアンセムがある中で、彼らが“MESSAGE”をリリースした時には「ステイユースレベルの曲がまだ生まれるのか!」と猛烈に感動したし、「ノーザンが居る限り日本のメロディックパンクは大丈夫だ」と誇らしく思ったものだ)。ライブ中、チューニングに入る度に「早くやれー!」「休んでんじゃねえぞー!」と語気強く放たれるオーディエンスの声は、そういった極上のサウンドを欲する気持ちは勿論、この日ばかりは「この3人のアンサンブルを間髪なく浴び続けたい」という気持ちが溢れ出たものだろう。その想いが伝わっていたからこそ、メンバーもその声を無下にすることはなったし、「あの曲やって!」という声を最大限汲もうとして「じゃあ何聴きたいの?」と投げかけた。案の定聞き取れないほどのリクエストが募ると、急遽ステージ上で会議が開始。すると馬場さんが「俺あれやりたい!“MY PUNISHMENT”!」と言い(馬場さん最高だぜ!)と思いつつ、やはり最終判断は知治さんへと委ねられた。知治さんの「俺は“SLEEP”がいい」との発言に健太郎さんが「いや、全部俺がボーカルの曲じゃん!」と突っ込みつつも、セットリストには入っていない“SLEEP”をプレイ。そういったサプライズ含めても、この限りある時間を心の底から楽しんでいる3人の姿がいつもに増して眩しかった。(後半にはオーディエンスの熱烈リクエストに応えて”BLOWIN'”をプレイしてくれた)

 

 そして「ここからがいい流れなんだよなぁ」と期待を匂わせたタームでは、「これは井村くんに捧げます」と“FAREWELL/START”を最初にプレイした。《We shared all days of youth》《Goodbye,my friend / Future we live is so bright》――この歌詞が最も響くのは、まさに今日だなと思った。16年間という決して短くない年月を共に過ごしてきた3人にとって、この日は大きな別れの瞬間であると同時に、未知の始まりの瞬間でもある。この日を迎えるまで、寂しさ、哀しさ、不安、怖さ、それらが入り混じった葛藤があっただろうし、恐らくこれからもあるだろう。けれど、その上で彼らがこの選んだスタイルは「いつも通り楽しもう」という意志だった。お涙頂戴的な長いMCや内緒で用意したサプライズは要らないし、きっと自分たちには合っていない。ただ単純に、好きな人たちと、好きな人たちの前で、好きな音楽を、好きなようにライブする。それが知治さんへの最高の餞別であり、彼にとって、そしてNorthern19にとって、最高の門出になる。それはわざわざ言葉にせずとも伝わってきたし、それでこそノーザンだなぁと嬉しくなった。”NEVER ENDING STORY”を経ての”MASSAGE”を演奏する前に健太郎さんが放った「絶対に死ぬなよ!またライブハウスで会おうな!」という言葉には、これからもNorthern19は続いていくことへの強く深い意志を感じざるを得なかった。そしてその気持ちを確かに受け取ったということをオーディエンスが身体と声で表すように、フロアは一面のハンズアップと大シンガロングで包まれた。ライブに正解不正解は無いけれど、この光景こそが最も正直で誠実なリアクションだと思えた。これ以上ないと思えたそんな景色だったが、ラストにプレイされた”STAY YOUTH FOREVER”はその絶景をさらに上回る一体感だった。「一体感」という言葉すら安っぽく聴こえるくらい、全員が、全力で、全身で受け止め、声を枯らすほど歌い、思い切り拳を突き上げ、この瞬間をそれぞれの胸に刻んでいた。

 

 そんな本編を終えても、私が見る限り誰ひとり帰ろうとはしていなかった。そして鳴り止まないアンコールに応えて再度ステージに現れた3人は、”BLUE SKIES, BROKEN BIKE... SAME FAVORITE SONGS""WE'LL BE ALRIGHT”を明るく鳴らし、「初めて3人でスタジオに入って30分で出来た曲!」と、彼らの始まりの曲”SUMMER”をぶちかました。そして最後に「知治の鼓膜に残すように!」と、本当のラストに選んだのは”STAY YOUTH FOREVER"。この曲しかないよなとは思っていた。それでも、明日声が出なくなってもいいと思いながら叫ぶように歌った。きっとあの場にいた全員がそうだった。そうでなければ、あんなシンガロングは生まれない。そしてその声の中で、知治さんが笑顔で言った「俺、一生忘れないよ」との言葉に込み上げるものが塞き止められずに泣いてしまった。「最後なんだ」という悲しみで泣いたのではなく、その言葉に嘘偽りがなかったこと、そして何百人が放ったフルエネルギーに食らって心が否応なしに反応したからだった。そんなライブを体感できたこと、そんな音楽を作るNorthern19に出会えたこと、その全てを誇りに思えた瞬間だった。

 

知治さん、本当にありがとうございました。

そしてNorthern19、続ける事を選んでくれてありがとう。

ノーザンの音楽が生き続ける限り、私の青春は続く。

 

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